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-1度目はストーリー、2度目はセリフや表情を。素敵なドラマは何度も楽しめる。-


このページは、No.1133 哉子がお伝えします。


★FINAL FLIGHT 「ラストフライト」★

★☆ 直前スポット

訓練施設から転落する元。
成見医師から父・良治へ、良治から元へ伝えられる悲しい宣告。
もう2度と操縦棹を握ることはできない―。元の頬を一筋の涙がつたう。
良治によって現実を突きつけられるものの、歩実の強い想いに助けられ、元は再び前を向き始める。
責任を感じて退職しようとした香田を引き止め、成功率の低い手術にも挑戦した。
再び空を舞うために―。
 ≪感動のラストフライトは30秒後≫
「待ってろ、このヤロー」

 

★☆ ストーリー

穏やかな波の音。
白い砂浜を転がるサッカーボール。ボールを追って走る子供たちが元の背後を通り過ぎる。
元が空を見上げると、はるか頭上で飛行雲を作っていくシップが目に留まる。
しばしシップを見つめていると、子供たちのサッカーボールが転がってきた。
元は、立ち上がってサッカーボールを手に取り、待っている子供たちへ向けて、手の中のボールを手術した右足で高々と蹴り上げた。

 ≪最終回 FINAL FLIGHT≫

足の治った元がすぐに乗務復帰できるわけではない。
まずは、フライトシミュレーター(模擬飛行装置)を用いてのパイロットチェックが待っていた。
結果は、チェックを終えた元が「よっしゃー!」と叫んだことでオールクリアだったことが解る。
喜びを押さえ切れない元だったが、そんな自分の様子を見たら仕事に厳しいあの人からこう言われるのでは…?「まだまだ安心するな」―”あの人”の声色でそれを口にした元は、「わかってるっつーの」と言葉を重ねて、軽い足取りで監査室に向かった。

元が監査室の香田のもとへ報告に行くと、当然のことながら、香田はすでに元が合格したことを知っていた。
足を気遣う香田に、完璧だと言ってその場でピョンピョン跳ねる元。
航空身体検査もパスしている元に残されたチェックは、監査フライトのみとなった。
香田より、来週日曜のホノルル便が監査フライトとなること、そして、復帰の可否に最終判断をくだす監査フライト時のキャプテンが香田であることが告げられる。
「よろしくお願いします」と頭を下げる元に、香田は、場合によってはこのフライトが元にとって最後のフライトになるかもしれない、と少し脅しめいたことを口にした。
しかし元は動じることなく―いや、逆に毅然たる態度で「手加減は一切いりませんから」と言い残して、監査室を退室した。

ハンガーでは整備士たちが大きな円を作って準備運動をしている。
歩実が身体をひねると、そこから少し離れた上のフロアで、同じように運動している元。
驚く歩実に、元は身体を動かしながら、「オレ、チェックOKだった」とばかりに大きなマルを作って見せた。
その後、整備作業についた歩実の傍らに降りてきた元は、監査フライト次第で全てが決まることに焦りを見せるわけでもなく、逆に監査にパスすると宣言するほど落ち着き払った様子。
怪我をして「もうダメだ」と思ったところからゆっくり上がってきたことで自分が何故ここにいるのかよく解る気がするから…と、目の前の監査フライトだけでなく、パイロットとして空を舞う未来への揺るぎない自信を語る元がそこにいた。
仕事をこなしながら元の言葉を聞いていた歩実は、「自信がある時が一番危ない」と相変わらず憎まれ口。
憎まれ口ついでに、監査に合格しなかったら2度と飛べなくなるかもしれないから、と自分もホノルルに行くと宣言した。
元は「オレのこと信用してねんだろ」と詰め寄ったが、歩実は、元と向き合い、元が勝負しているシップで自分も飛びたいという本音をしっかりと口にした。
でもやっぱり「監査に落ちたら大笑いしてやる」と可愛くない言葉を残してその場を走り去っていく歩実に、笑顔がもれる元だった。

監査フライトの日を迎えた。
身支度を整えた元は、水島キャプテンからもらった肩章を胸ポケットにしのばせた。
そうして部屋を出ると、隣は何やら引越し作業中のようで、運送員に「お願いします」と声を掛ける異邦人がいた。
元に気づいた異邦人が近づいてきて、このマンションを出ていくと告げる。
異邦人「ショウちゃんに捨てられたのはくやしいけど、泣いてばかりもいられないから」
「いや、捨ててないでしょ!?オレ」
そばにいた運送員にもそう訴える元に、突然異邦人が抱きついてきた。
異邦人「ショウちゃん」
「…はい」
異邦人「もうショウちゃんのフリするの、やめて」
フリしていたの知ってたんだ…。半ば呆然としている元にお構いなしで、別れを告げエレベーターに乗り込む異邦人。元は慌てて追いかけてエレベーターの前に立ち、神妙な顔つきで「さよなら」と言った。
異邦人「仕事、頑張ってね」
「うん」
異邦人「日本一の郵便屋さんになってね」
「うん…えっ!?」
その瞬間にスーッと閉じるエレベーター。
元は持っている帽子を見つめて「郵便!?…屋…」と、”?”マークたっぷりの顔でつぶやいた。

元は、出社する前に実家”つり幸”へ立ち寄った。
元の姿を見つけて誠が駆け寄ってきたが、良治は顔をそらして船を出す準備に入った。
元は黙々と仕事を続ける良治に、今日空を飛ぶこと、それが復帰を賭けるハワイ便で試験に受かったらパイロットに復帰すること、を報告した。
良治からの返事はない。たまりかねた誠が「少しは父親らしい言葉をかけてやれよ」と食ってかかるが、顔を上げない良治。元も無理に良治の言葉を受けようとは思っていなかったので、誠を制止した。すると、良治が仕事の手を休めずに重い口を開いた。
良治「土産だ」
「…えっ!?」
良治「土産買ってこい」
「…いいよ。何がいい?」
良治「ハワイと言ったら…パイナップルだろう」
「オレ、パイナップル前買ってきたじゃん」
良治「ありゃー甘味がたりなくてダメだ。もっととびっきり上等なヤツ買ってこい」
思わぬリクエストに、こみあげる嬉しさをこらえ切れなくなって口の端が上がってしまう元。
「知らなかったー。親父、あのパイナップル食ったんだ…」
そんな風にしみじみしちゃった誠は、元に「早く行けよ」とお尻を蹴られ、ブツブツ文句を言いながら船に乗り込む。
船が出たのと同時に背を向けて歩き出したところで、元の背中に船の汽笛が届いた。振り返ると、前方の海を見つめたままの良治の手が、元に”Good Luck!!”とエールを送っていた。

歩実もまたハワイに向かうため、家を出た。
心配そうに見送る香織に、大丈夫!と胸を張るかと思いきや、「どうかな…」と少し不安げな色を浮かべる歩実。
歩実「だって、操縦すんの、あのバカだから」
香織「でも信じてるんでしょ!?新海さんのこと」
元のことを”バカ”と呼んで笑って話す歩実の本心は、香織にはお見通しだ。
歩実は「今度はお姉ちゃんも一緒に行こう」と強い意志を残して、未来に向かって歩き始めた。

出社する香田。時を同じくして出社した富樫。
お互いに挨拶を交わし肩を並べて歩く中で、元の復帰への期待を込めて「監査はお手やわらかに…」と軽く笑顔を見せる富樫に、「監査がお手やわらかにやってどうする」と香田の口調は厳しい。しかし、元の復帰を一番願っているのが香田自身だということを解っている富樫には、こんなやりとりも心地いいものだった。
それぞれの部署に別れる際、香田が富樫を引きとめた。
香田「このフライトが終わったら…」
香田はそこまで言って口ごもってしまったので、富樫は「なに?」と尋ねた。しかし「いや…いい」と言ったきり歩き出してしまった香田に、富樫は「なんなのよぉ」と半ば呆れたような言葉をもらし、仕方なく自分の部署へと向かった。

出社した元が、ジェーンと安住の背後に迫り、2人の間に「おはようございます」と顔を出すと、2人は同時に「新海!」と呼んだ。
その舌の根も乾かぬうちに「誰?…誰?この人」とトボけるジェーンに、冷ややかな視線を送って知らんふりの元。
ジェーン「ちゃんとご挨拶出来ない子には、フライトプラン見せないよ」
香田がキャプテンなのに何故ジェーンが…?
そう思ったところに太田が現れて、今回のフライトで、ジェーンが元のバックアップパイロットを務めることを伝えた。「めんどくせぇんだけどなっ」と勢いよく元を指差したジェーンの人差し指は、すぐさま元の手で押しつけられ、その直後に太田の人差し指がジェーンを指差す。そして元に、ジェーンがバックアップを志願したことを重ねて伝えた。ちょっと驚きを見せる元。
ジェーン「かくいうクローバー太田ちゃんは何しにココにきたのかな!?」
照れ隠しのようなジェーンの話題のすり替えにまんまとのせられ、太田は、今回ホノルル便に入っていないため見届けられない元のフライトを見送りにきたと張り切る。厚い気持ちをのせて激励する太田は、元より感謝の言葉と握手をいただくと、俄然調子が上がってきたようで、香田のことはロボットが隣に座っていると思って…と言ってしまう。そう口にしている間に香田が現れたことにも気づかずに…。
太田は、香田に背後から声をかけられ、そそくさとその場を去った。ロボット並みの無表情を崩さない香田からは、ただ「始めるぞ」と簡潔なる一言。
元は、安住の無言の励ましに感謝の目配せで応え、打ち合わせに入った。

打ち合わせを終えたホノルル便パイロット陣が旅客ターミナルを歩いていると、元の目に、チケットを手に待合の椅子に座る歩実の姿が飛び込んできた。
元は、2人のキャプテンに断りを入れて歩実のもとへ。
一般の搭乗客を前にしたようなゲート案内をしながら歩実の前に立った元は、「大丈夫?」と気遣いを見せるが、歩実はいつもの調子で―プラス、心持ち歯を食いしばりながら「ぜんっぜん大丈夫」と答える。
お互い憎まれ口のような激励を交わした後、さっと立ち上がり先を行こうとする歩実。そんな歩実の前に立ちはだかる元。
「あのさ」
歩実「なに?」
「ちゃんと無事にホノルル着いたら…」
歩実「着いたらなに?」
「…だから…だから、ちゃんと着いたらー…」
歩実「だから、着いたらなに!」
歩実が微笑む。なんだか解ってて言わせようとしてる?一瞬もどかしげな表情を見せた元は、顔を近づけて歩実の耳元でささやいた。
「チューして」
歩実「…ばっかじゃない!?」
「…なんだよ、それ」
2人は、口にする言葉とはうらはらな微笑みを浮かべた。
そんな2人の様子を見ていて歩実に見送りに来ていると思ったジェーンは、元が戻ってくるや否や、怒りの鉄拳を繰り出した。
歩実は見送りに来たのではなく、ホノルル便に搭乗する乗客としてここにいることを告げる元。ジェーンへの弁解でもあるが、どちらかというと香田に向けて―。
「行きます」と先に歩き出す元に、歩実がどこのホテルに泊まるのかと尋ねて元に追いすがるジェーン。1人残された香田が歩実に視線を送ると、歩実はしっかりとそれを受けとめ笑顔を見せた。

フライト前のブリーフィング。
このホノルル便が元の監査フライトであること、しかしながらそれは乗客には関係のないこととして、いつも通りパーフェクトなフライトを目指すようにと、場を引き締める香田の挨拶があった。
香田の挨拶に、誰よりも早く、そして誰よりも大きな声で返事をする元に、C.A.たちからは「おかえりなさい」と温かい言葉が贈られた。

全ての準備が整い滑走路に向かうホノルル便。
1人それを見送る太田からは力強いダブル”Good Luck!”が送られる。
元はいつも以上に慎重に、だがしっかりと操縦棹を握った。
もちろん歩実も乗客として搭乗しているが、流れる景色にすでに恐怖感が沸き、窓を閉めてしまった。そんな歩実に「こわいの?」と声をかけたのは偶然乗り合わせた男の子で、仕事で先に行った両親のもとへ行くため1人で乗っていると言う。「ぼく、初めてだけど全然こわくないよ」との頼もしい言葉を聞いて、歩実の表情も少し和らいだ。
元も着実に業務をこなしていく。そうして、2人が未来を賭けたシップは、無事成田を離陸し、ホノルルへ向かった。

フライト中、星がまたたくクリアな空を楽しむ余裕を見せる元だったが、楽しんでいる暇はない、と香田がレーダーを指差した。
レーダーには塔状積雲と思われる表示が見られた。香田が言うには、成長中の雲であるため雷も見られるだろうとのことだった。

一方、歩実はというと、やはりどこか無理をしているような表情を浮かべていた。
隣に目をやると、先ほど声をかけてきた男の子はぐっすりと眠りについていた。
そこへ富樫が現れ、歩実を気遣い優しく声をかける。
そんな静かなキャビンの中で、歩実の前の列の乗客が髭剃りを始めた。シェーバーの音が響くため、富樫に化粧室で…と促された乗客は、すんなりと化粧室に消えた。
ほどなくして、シートベルト着用サインがともり、気流の悪いところを通過する旨が、香田の機内アナウンスによりキャビンに伝えられた。
接客にあたっていたC.A.たちも全ての用具をギャレーにしまい込んだ。
歩実は寝入っている隣の男の子にもシートベルトをかけた。

コックピットから肉眼で確認できるくらい雲に接近したシップ。
雲は思っていたよりも大きいようで、しかも左に張り出している。
香田は元の判断を仰いだ。「監査だぞ」とプレッシャーをかけるジェーンの言葉に少し居ずまいを正した元は、落ち着いて雲の形状、シップの状態を分析し、一旦風上へ逃げて右側から抜けた方が機体の揺れが少ないのでは…との判断を提示した。
それを聞いたジェーンは舌打ちする。間違った?―と思いきや「正解!生意気なヤツ」とのご返答をいただいた。香田からも「少しは成長したようだ」と一応誉められているのだろうと思われるお言葉を賜った。そして、元が出した判断の通りシップは右へ旋回した。

キャビンでは、先ほど髭剃りのために化粧室に入った乗客を席に戻すために、うららが化粧室のドアをノックし続けていた。かなり激しいノックの連続に、やっと出てきた乗客は文句を言いながら席についた。

右に旋回したものの、少しばかり機体が雲にひっかかってしまうことになってしまった。
コックピットに緊張が走り、操縦棹を握る手にも力が入る。
そして雲の中へと入っていくシップ。
途端に大きな揺れが起こり、静かに眠っていた男の子も目を覚まして歩実の手にすがりついた。雷も鳴り響き、キャビンのあちこちから乗客の悲鳴があがる。歩実はすがりついてきた男の子を抱き返し、力一杯目を閉じて耐えていた。

ようやく雲を抜けたシップ。もう前方の視界に障害となるものはない。
すぐさまキャビンの確認をするように、と香田から指示が出される。後方で見守っていたジェーンからは「ナイスコンビネーション」と声をかけられた。
揺れがおさまって平静を取り戻したキャビンでは、さっきまですがりついていた男の子が「もう大丈夫だよ」と歩実に笑顔を向けた。自然と歩実も笑顔になり、「ありがとう」と男の子の頭をなでて、ホッとひと息、大きく息をついた。

コックピットよりキャビンへの確認が入った。
元からの確認を受けた富樫が、大きな混乱はない、と答えていると、突然ボンッ!という音があがり、次の瞬間キャビンの全ての照明が落ちた。
闇に包まれたキャビンに、再び騒然となる乗客。その声はコックピットに届くが、コックピットからは何が起きたのかわからない。急いで交信中の富樫に確認をとると、富樫から分かる範囲の全てが停電になっているとの答えと離席の許可を求める声が返ってきた。

歩実もまた不安に押しつぶされそうな表情を見せていたが、隣の男の子が再びすがりつき今までにないくらいに怯えていたため、その子を励ますのに必死に声をかける。このシップはとっても優秀なパイロットが操縦しているから大丈夫、絶対に守ってくれるから、と―。

コックピットの電源は確保されていて操縦自体に何の問題もない。
元と富樫は、交信を続けて停電の原因になる要素を探り始めた。
機体はその構造上雷の影響を受けないようになっているため、先刻の雷は原因とは成り得ない。他に原因がないか探るよう香田から指示が出されるが、C.A.たちは、乗客の混乱が収まってからでなければ動くことはできない。
香田「キャビンに、うちの優秀な整備士が乗っているはずだ。彼女に頼んでくれ」

すぐさま香田の指示が歩実に伝えられる。
困惑する歩実だったが、富樫からも「同じクルーとして力を貸して下さい」と懇願され、「やってみます」と意を決した。
歩実が席を立とうとすると強い力で引き戻された。すがりついた男の子が離してくれないのだ。そこへうららが入り男の子の世話をすることで、ようやく席を立てた歩実は、原因究明に向かった。

コックピットでも自由に動けるジェーンが色々調べたようだが、コックピットでは全てが正常に動いているため原因をつかめず首をひねるばかりだった。
そこへ配電盤のチェックを終えた歩実から連絡が入り、キャビンの照明ブレーカーが落ちていたことが伝えられたが、それだけでは原因はわからない。コックピットの計器表示に異常やメッセージが見られるか尋ね、香田から何の異常もないとの返答を受けると、歩実は、おそらく回線のどこかががショートしたと思われる、と判断した。
香田はコックピットへの影響があるかどうかが気掛かりだったが、原因が究明できていない以上100%影響がないとは言い切れない。引き続き原因を探るという歩実に「頼んだぞ」と声をかける香田。歩実は香田の言葉をしっかりと受け止め、キャビンへ戻った。

「キャプテン」
香田「なんだ」
「オレもキャビン行ってきていいですか」
こういう事態だからこそ冷静に対処しなければならないと教え諭す香田だったが、元は冷静さを欠いているわけではなかった。
システムに1%でも不安があるのならば、パイロットがなるべく早く自分の目でそれを確かめなければならないのでは?と、そうでなければ乗客やクルーに信じてくれとは言えないと進言する元。
元にはもう監査など関係なかった。ジェーンにコーパイ席へ就いてもらうよう頼んでキャビンへ向かおうとする元。香田は元を呼びとめた。
香田「キャビンにパイロットが出ていけば逆に乗客に不安を与える可能性もある。
   出ていくからには、乗客の不安を取りはらうまで帰ってくるな。
   …キャプテンの命令だ」
元は「ラジャー」と言ってコックピットを出た。

元がキャビンへ出ていくと、予想通り抱えていた不安をぶつけながら乗客が押し寄せてきた。
何とか前へ進もうとする元を囲む乗客は増えるばかりで一時足を止められてしまうが、状況を説明する香田の機内アナウンスがフォローとなって、ようやく動けるようになった。
歩実や元だけでなく手の空いているC.A.も加わって、狭いキャビンを奔走し原因となりうる箇所を次々と確認していく。が、なかなか原因に当たらない。乗客も落ち着いているとはいえ、このままの状況が長引くとパニックになりかねない。
その時、C.A.の原田が元に声を掛け、煙が出て焦げ臭い匂いを放つ化粧室へと元を誘導した。
化粧室のドアを開けた元が、たちこめる匂いに顔を歪めながら中を懐中電灯で照らすと、焼け焦げてすすけたコンセントとその先に続く髭剃り用のシェーバーが浮かび上がった。
元は、歩実を呼んでくるよう原田に頼んで、まだ熱の残るコンセントを何枚ものティッシュに包んで外した。
駆けつけた歩実が、配線を調べるために化粧室の中に入った。
コンセントの下の配線をカバーしている仕切り板に手を伸ばすものの、そこにも熱が残っていて思わず手を引っ込めてしまった歩実に、元が素早くグローブを外して渡し、仕切り板が取り除かれた。丹念に配線コードを確認していく歩実。そして、キャビンの配線が焼けて切れていることを発見した。
原因は判明した。しかし、今度はツールもパーツもない現状では修理は望めないという事実が立ちはだかる。
一番懸念するところのコックピットへの影響だが、元にそれを尋ねられた歩実は、キャビンとは別系統だから問題ないと答えた。
「それって、整備士として言い切れる?」
歩実は元を見据えた。歩実の表情の意味を察した元は、300人の乗客の命を預かる責任の重さを改めて言葉にした。
歩実「…オペレーションシステムに影響は絶対ありません。私を信じて、安心して操縦して下さい」
「…わかった。サンキュ」

暗がりの中、元によるキャビン内のマイクを使ってのアナウンスが始まった。
まずは停電という状況に対してのお詫び、停電の原因、さらには航行中の修理・復旧の見込みがないことを、もらさず伝える元に、とうとう乗客の不安が爆発する。
元は、操縦自体に問題はない、必ず安全にホノルルまでお送りします、とアナウンスを続け、謝罪の言葉とともに深々と頭を下げた。
頭を下げる元を前に一応はおさまったものの、それでもまだ行き場のない怒りを持て余している乗客もいるようで、そんな雰囲気もあってずっと頭を下げたままでいた元だったが、ふと窓に目をやり、再びマイクを口元に寄せて、窓側の乗客にシェードを開けるようにアナウンスした。
「まもなく、夜が明けます」
元のその一言で、乗客たちが一斉に窓のシェードを開けた。すると、赤ともオレンジとも思える薄ぼんやりとした光が横一直線に広がる空が見えた。
歩実は、隣の男の子を窓側の自分の方へ引き寄せた。
「もうすぐ機内に朝日が差し込んできます。
  どうかお願いします。我々乗務員全員を信じて下さい。お願いします」
元は、もう一度頭を下げた。
ほどなくして太陽が顔を出し始めた。オレンジ色の横一直線だった空が、朝日に照らされ眩しいまでに青く広がっていく。
乗客から歓声があがる。もう先刻までの重い雰囲気は微塵もなかった。
輝く太陽。どこまでも、どこまでも広がる白い雲、そして青い空。これがシップから見ることのできる空―。
歩実の目には涙が溢れていた。涙を見せながら満ち足りた表情になっていく歩実を、元がじっと見つめていた。その視線に気づいて顔を向けた歩実に、元は、一瞬微笑んで「ありがとう」と口を動かした。そして、今度は声を出して「失礼します」と一礼し、コックピットへ戻っていった。

コックピットへ戻った元は穏やかに迎え入れられ、再びコーパイ席へついた。
そして香田より告げられる監査の最終チェック。元はランディングを任された。
だが、気合いを入れ直したその手にグローブがないことに気づく。歩実に貸したままコックピットへ戻ってしまっていたのだ。軽く舌打ちをした瞬間、ジェーンから「消毒して返せよ」とグローブが投げ込まれた。ジェーンのグローブをはめて気合いを入れ直した元は、ゆっくりと操縦棹に手をかけ、空の状況を読みながら操縦を続けた。
雲の切れ間からホノルルの海が見えてきた。キャビンも長旅の終わりを前に乗客の期待であふれているようだ。歩実にも、もはや恐怖感はなく、清々しい表情でしっかり前を見つめていた。
距離を縮め、徐々に視界に飛び込む大きさが増していく滑走路。的確な判断のもと落ち着いた操縦を続ける元。香田との息もピッタリ合っている。元はゆっくりと操縦棹を引いた。
シップはスムーズに滑走路へ降り立った。無事着陸したことが分かると乗客から誰が先んじるでもなく拍手が生まれた。それを見ていたC.A.からも笑顔があふれる。歩実も隣の男の子と顔を見合わせて満面の笑顔を見せ、そして、大きな安堵のため息をもらした。
そんなキャビンの様子を知ってか知らずか、コックピットでは、ジェーンの「ナイスランディング!」という言葉を受けながら、長く延びる滑走路を見据えて達成感にあふれる元がそこにいた。

C.A.に見送られシップを後にする乗客はみな一様にして笑顔だった。
歩実の隣に座っていた男の子は、歩実に「ぼく、パイロットになろうかな」との言葉を残し、「今度またお姉ちゃんの飛行機に乗るからね!」とうららに話しかけ、「ありがとう」と元気よく駆け出してC.A.たちのさらなる笑顔を誘った。
そして、最後の乗客となった歩実は、富樫をはじめとするC.A.たちとお互いに労をねぎらいながら、シップの外へと足を踏み出した。

コックピットでもジェーンが香田と元にねぎらいの言葉をかけていた。続けて、久しぶりに朝日を見た楽しいフライトだったと言って、元に「グローブ消毒して返せよ」としっかり念押しして、ひと足先にコックピットを後にするジェーン。
監査の結果は香田より告げられた。
一部ムラが見られたという指摘を受け、一瞬顔を歪める元だったが、それについては経験を重ねることで上達するだろう、と続ける香田の言葉に目を見張る。
香田「合格。正式なコーパイ復帰だ」
元は、湧きあがる喜びをかみしめつつ、パイロットを―太陽に一番近づける場所で空を飛ぶことを一生楽しんでいくと誓った。
香田「…しかし綺麗だったな」
「はい?」
香田「さっきの朝日だよ」
元は笑みをもらし、大きくうなずいた。
今日の元の姿を見て、昔の―初めて空を飛んだ時飛ぶのが楽しくてしかたなかった自分を思い出した、と目頭を熱くしながら、このフライトを振り返る香田。
香田「新海」
「…はい」
香田「…ありがとう」
そう言って、握手を求めて右手を差し出す香田。元は、力を込めて香田の手を握った。

キャビンでは富樫もまた最終チェックを終えたところだった。
そこへ現れた香田と元にねぎらいの言葉をかけ、監査結果を聞いて自分のことのように喜び、元と握手を交わした。
制服のラインが4本(機長)になるまでよろしくお願いします、と改めて頭を下げる元に、富樫は「こちらこそ」と笑顔を向けた。
次の瞬間、元に目配せをする香田。元もそれを察して、先にシップを後にした。去り際に”GoodLuck!”サインを残して―。
富樫は改めて香田にねぎらいの言葉をかけた。
「確かに疲れたよ」と口にして、どっかりとシートに座った香田。
香田「…お座りになりませんか?」
富樫「…よろしいですか?」
香田「どうぞどうぞ」
富樫は香田の隣に座ってひと息ついた。
2人きりのキャビン。柔らかな空気が流れる空間をしばらく無言でたたずむ香田と富樫。すると、香田が突然富樫を旅行に誘う。あまりにも唐突で驚く富樫。
富樫「…もしかして、それ言おうとしてたの?フライト前…」
それは図星のようで、少し照れてそっぽを向く香田に笑顔を見せながら、富樫は旅行プランを立て始めた。
富樫「そうねぇ…やっぱり、パリかしら?」
香田「…パリは今月3回も行った。…ロンドンはどうだ?」
富樫「ロンドン!?だって私、前の路線の時ロンドンばっかりだったのよ!?」
香田「…じゃ、どこがいいんだ…」
そう問われた富樫は、ゆっくりと香田にもたれかかった。そして嬉しさを押さえきれないように香田にすがり、2人の間にある香田の左腕をつかんだ。
香田もそれに応えて、自分の腕にのせられた富樫の手を優しく包んだ。

歩実「遅いっ!」
真っ青な海が広がる白いビーチを歩きながら、歩実は開口一番、元への怒りをぶつけた。
パイロットには色々とやることがあるんだ、と言い訳を並べる元に、監査結果を尋ねると、合格という結果が告げられる。「当然!」と調子にのる元に「奇跡だね!」と言い放ち、海に向かって「おめでとう」とは…どこまでもひねくれ者の歩実。
逆に、元が怖くなかったかと尋ねると、怖がっている暇なんてなかったと答える歩実。まぁ、確かに…。
歩実「でも…、ばっちり見たよ」
「なにを?」
歩実「…空。雲の上の。…すっっっごい綺麗だった」
やっと空を飛べたことを一緒に喜ぶ歩実と元。
そうして2人並んでしばし空を見ていると、元が歩実の方に向き直る。そして歩実も元の方に身体を向けて、目を閉じた。どんどん縮まる2人の距離…。
「ぅおわっ、カニ!」
歩実「はっ!?」
思わず目を開けた歩実の目の前に、元の姿がない。下を向くと、カニをつまんだ元が立ち上がってきた。
「なんなの、あんた!!」と怒りをぶちまける歩実だったが、元はカニを見せてくるばかり…。微妙〜な空気が漂う中、轟音とともにビーチをすり抜けるシップの影。
シップを見上げる歩実に、元は自分の制帽をかぶせた。満面の笑顔を見せて「もうちょっとこっちかな?」とツバを真横にずらしつつ、次の一瞬で歩実の唇を奪う元。
素早いKISSに目が点になった歩実だったが、「ヘタクソ!」と言い放って微笑み、元の唇に自分の唇を重ねた。
長いKISSの後、元は歩実を抱き上げた。そんな2人は、太陽に照らされた眼前の海のようにキラキラと輝いていた。

パイロットとして平穏を取り戻した元は、滑走路に降り立ったシップと並んで猛ダッシュ!でご出勤。相変わらず遅刻魔…。
香田は、以前と同じ厳しさを見せつつも、どこか穏やかさを感じさせる表情でパイロットを続けている。
うららや原田らC.A.たちも、華やかに談笑しながら乗務に向かう。
阿部もまたハンガーで真剣に整備業務を続けている。
ジェーンも相変わらず。フライトを共にする安住に向けて「やだよ」とつれない素振り。

次のフライトに向けターミナル内を歩く元は、ふとすれ違うC.A.に目が留まって、振り返り、そのC.A.の後ろ姿をじっと見つめた。
「…まさかなぁ…」
そうつぶやいて再び歩き出す元。その背中に、チャイナエアラインの制服をまとったC.A.は、颯爽と歩きながら笑顔で言った。
異邦人「逃げてもムダよ、ショウちゃん」

ハンガーを自転車で移動しながらシップを見上げる歩実。
”つり幸”でも同じようにシップを見上げる良治と誠。
良治「えっらそうに…」
「高ぇとこ飛びやがって」
自分の台詞を奪われた良治は思わず笑みをもらした。

富樫も太田も、変わらず接客乗務をテキパキとこなしていく。
そのシップのコーパイである元の機内アナウンスが始まる。
「コックピットよりお伝えします。
  皆様、長時間のフライト大変お疲れ様です。副操縦士の新海です。
  本日も皆様のご協力を得て、無事に目的地まで到着できますことを、乗務員一同感謝申し上げます。
  現在、地上では、世界的に少々荒れ模様になっておりますが、この後必ず、…近いうちに、
  また晴れ間が差すことを、皆様と一緒に、願いたいと思います。
  この空の上での出会いを大切に、いつの日か、再び皆様とお会いできますよう、
  心からお待ち申し上げております。
  それでは皆様、良き旅を」
マイクを置く元。しかし、ふと気づいて再びマイクを取った。
「…GoodLuck!!」
そして、元は今日も空を飛んでいる―。

 

☆★ 今週のキメゼリフ

 

☆★ この顔!この仕草!!ファン必見のリプレイポイント

 

☆★ 今週のベストショット

 

☆★ レポ担発信”ぶっちゃけツボなんです!”

 

 


★「GOOD LUCK!」INDEX★

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