眠れる森
A Sleeping Forest
第九幕 ◆ 「マリアは見ていた」
Reported By No.595 TOMO
国府は、縛り上げた直季を車のトランクに押し込み、森へ運んだ。
トランクから直季を下ろすと、その横で巨大な穴を掘る。引き攣った顔で直季が問う。
「何そんなもん掘ってるんだよ!」
国府は、直季を穴の中へ蹴りいれ容赦なく土をかぶせ始める。
直季「なっ、俺、あんたに会ってどうしても聞きたい事があったんだ。
あの15年前の犯人は別にいる。なのにどうしてあの時、あんたは冤罪だって訴えなかったんだ。
どうして実那子に近づくんだよ。」
国府「小僧、檻の中で15年だ。それがどんなもんだかわかるか?壁の中で生きるんだ。
俺が今何をしたいか教えてやるよ。…パーティだ!」
国府の高笑いが、空しく響く。全身に土を浴びながらも直季は問い続ける。
直季「あんたは恋人が死んだショックで、裁判なんかどうでもよかったんだ。
でも、その態度が罪を認めているように、周りの人には見えた。
森田君子の後を追ってあんたは死のうと思った。でも、あんたは生きる方を選んだ。
だから15年間も壁の中で一人で絶えた。
地獄を教えてやりたい相手って誰なんだ。これがパーティか?なぁ、答えろよ!」
なおも土をかぶせ続ける国府に向かって、直季は叫ぶように問い続ける。
そして…「助けてください。」恐怖から直季がそうつぶやいた時、国府は、ナイフを突き付け言った。「もう、これ以上俺を探すな。次は殺す。」
車に戻った国府は、1枚の写真を手に取る。それは、15年前の実那子だった。
A Sleeping Forest 〜 眠れる森〜 第9幕 『マリアは見ていた』
由理は、実那子の職場を訪ねた。
「何か、あった?」問いかける実那子に由理は言った。「直季がいないんです。」
家に帰り、直季の部屋の窓を見つめながら実那子は思った。
「彼からもらった思い出を大切にしたい…。同じ思い出を持っている事で私は彼の一部なんだという…その不思議な思いを私はいつまで持ち続ける事が出来るんだろう。本物の記憶が殻を破って現れる時、この偽者の記憶は色褪せてしまうのだろうか…。」
直季は足を引き摺りながら、国府の妻(春絵)の職場を見張る敬太のもとに現れた。
春絵は、1本の電話を取る。「三日後ですね。わかりました。」
明るい声で兄に、「市場から!」と言ったものの、その様子はどこかおかしい…そして「12月7日
3時」とメモを取った。
直季と、敬太は、15年前のあの殺人現場でその当時、担当だった元刑事と会っていた。
この部屋で事件は起こったのだ。
当時の話しを、一つ一つ確かめるように質問を繰り返す。そして、犯人の逃走したと思われる裏口へと出てみた。
そこで直季が見たものは、自分を見つめているマリア像。
その目は、ダイアモンドで出来ている。事件後、200万円もの寄付が贈られたという。その匿名の者。それが犯人なのか…?だとすると、国府は犯人ではない。
「あの時あの子はつぶやいたんです。いや…父親が死んだ事は自分の目で見て知っているはずです。混乱していたんでしょう。家の前に詰め掛けている野次馬に向かってつぶやいたんです。
一言…「お父さん…」絞り出すような声で…。」元刑事は言った。
その『お父さん』とは、実那子の本当の父親では…。
事件の夜、実那子の本当の父親が、この現場にいたってことか…?
その頃美那子は、輝一郎の父(正輝)のアトリエで絵のモデルになっていた。
互いの昔話などしながら…。
そこへ輝一郎が入ってきた。「終わった?」
実那子はキッチンへと食事の支度に向かう。
残った輝一郎と、父が話し込んでいる時、輝一郎は窓の外に人影を見かけ、慌てて飛び出していく。そこにはやはり、母(麻紀子)が立っていた。
輝一郎「おかえり。おやじも待ってるよ。ねえ、母さん。母さんあの夜何処にいたんだ?」
麻紀子「15年前のクリスマス・イブね」
それだけを言い残し麻紀子は、また、消えた。輝一郎を探しに来た実那子に気づいて…。
由理は直季の職場を訪ねた。
一方的に話し掛ける由理。それを無視し、仕事を続ける直季。
「やっと見つけた!つらいなあ。こんな風にいなくなられると。
もう実那子さんを助ける必要が無くなったから?じゃあ、次は私を助けて?!
私はきっと直季から与えられるだけじゃない。何かを直季に与えられると思う。私だって直季を救えると思う。
こうやって寄り添っていれば少しは、あったかくなるでしょう?私だって寒くなくなる。寒くなったらこうやってあったかくなって、何か苦しい事があったら苦しみは半分になる。何か楽しい事があったら私も分けてもらう。
一緒に生きるってそういうことだよね。そうやって生きたいの直季と!直季を救う事くらい出来るんだから。私にだって…。」
たった今セット・アップされた光の中で、涙を流し合いながら抱き合う二人。
そして、そんな二人を見つめ涙を流す敬太。
絶望と、憎しみに満ちたような瞳をして…。
立ち去る敬太の後のビルには、抱き合う二人の影が大きく伸びている。
「お父さん、おいしそうに肉じゃが食べてくれて嬉しかった。」マンションの部屋で実那子は輝一郎に話し掛ける。
実那子「あれから私、考えたの。母は、不倫をしてた。父は、それが許せなくて私を虐待してたとしたら、
ひょっとしたら私は、『母と、母の不倫相手の間に出来た子供』だったんじゃないかなって。」
輝一郎「もし本当のお父さんがいるとしたら、実那子はやっぱり本当のお父さんの会ってみたい?」
実那子「母が愛した男の人ってどんな人だったんだろう…。会ってみたいな。」
輝一郎「『花嫁の父』だもんな!」
壁には、晴れの日を待ちわびるように、ウエディング・ドレスが掛かっている。
直木が部屋に入ってくると、振り向きもせず、父(直己)は声をかける。その背中に向かって直季は話し始める。
直己「直季か?」
直季「15年前のクリスマス・イブ、親父、何処行ってた?」
直己「大学病院の頃の知り合いに会いに行ってたんじゃないかな…昔の事だ。」
直季「本当は、何処行ってた?」
若い頃の直巳の写真の入ったペンダントをその手元に落とし、直木は続ける。
直季「それ、俺のじゃないよ。12歳の頃の実那子が一番大切にしてた物だよ。
でも実那子、それを土の中に埋めたんだ。俺が掘り返してきた。
15年前のあの晩、実那子、野次馬ん中にいる親父の事見てんだよ。自分の本当の父親が、
あの晩、家の前にいるの、実那子、見てんだよ!
どうして実那子だけが、あの事件で生き残ったのか、俺、やっと解ったわ…。
国府が現場に来たから、犯人は実那子を殺さずに逃走したって、俺、
ずっとそういう風に思ってきたけど、違ったわ…。犯人は殺さなかったんじゃなくて、
殺せなかったんだよ!無理だったんだよ。実那子は実の娘だから!
どうして親父が、実那子の記憶を消そうとしたのかも解った。忘れて欲しかったんだろ!
実那子が見た物、全部。実那子が見た自分の顔も!
マリア像とは、目、合ったか?200万円の寄付で両目に光が入った、きれいな目だったよ。
黙ってないで何とか言えよ!違うんだったら、『違う』って言えばいいじゃないか。
『違う』って言えよ!何で言えねえんだよ。一言、『違う』って、何で言えねえんだよ。
なぁ…何で言えねえんだよ。『違う』って!
それは、あの一家をあんたが殺したからだろう!!」
そこで、直見は初めて直季を見た…。
≪レポ後記≫
つたないレポに最後までお付き合いくださってありがとうございます。
まだまだ、満足の行く物ではないけれど、今の私の精一杯です。
冒頭の暴力シーン(?)を繰り返し見るのはつらかった。光の中での直季と由理のシーンは、本気で切なかった。ラストの直木のセリフもいろんな感情がいっぱいあって見返すほどに切なくなった。
個人的な推理や感情が文章に表れないように、次回に続く大事な物を書き漏らさないように気をつけたつもりですが、『んっ!?』と思う所があっても、「よく頑張ったネ!」って誉めてやってください!!(あははは…)
ますますTAKUYAが近くなったようで楽しかったです。 TOMO