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-1度目はストーリー、2度目はセリフや表情を。素敵なドラマは何度も楽しめる。-


このページは、No.1133 哉子がお伝えします。


★ 第9話 「二人結ばれた夜」 

☆★ ストーリー

横断歩道の中央で交差する涼と完三。
途端に顔を歪めた涼は、横断歩道を渡り切る直前で倒れた。
涼の白いTシャツが、脇腹の部分から赤く染まっていく。
反対側に渡った完三は、血に染まったナイフをポケットにしまい込み、力を振り絞って凝視する涼に背を向けた。
涼を見つけようと辺りを見回す優子は、タクシーの窓から見つめる涼を見つけられず…。
涼を乗せたタクシーは小さな個人病院の前に止まった。
タクシーを降りた涼は、脇腹の痛みに耐えながら病院の入口に倒れ込んだ。
診療が終わっていることを伝えに来た老医師が、涼の傷に気づく。
のんびりとした風貌の老医師。苦笑いを浮かべながら「こんにちは」と挨拶する涼。
2人がかもし出す和んだ空気は、涼が苦し紛れに血だらけの手を噛んだことで一瞬のものとなった。

治療を終えた老医師に包帯で巻かれた腹部をポンッと叩かれ思わずうめく涼。
そんな涼に、老医師は、笑顔で入院を言い渡した。

重い足取りで帰宅した優子は、台所にいる完三に、つとめて明るく話し掛けた。
だが、振り向いてもくれない完三に言葉を詰まらせ、すぐ自分の部屋に続く階段を昇った。
完三は、優子を気にしながらも、ただひたすらに、自分の手を洗い続けた。

翌日、日の出署に出勤した完三は、大沢課長に辞表を提出した。
昨夜の有楽町の事件は自分がやった、と頭を下げながら。
しかし、大沢課長に思い当たる事件はなく、完三に頭ごなしの怒声を浴びせて刑事課を出て行った。
大沢課長と入れ違いに入ってきた杉田は、何があったのか尋ねたが、完三は返事を濁した。

優子に、あの夜待ち合わせに現れなかった理由を伝えたのは、涼に頼まれた裕希だった。
尋ねれば尋ねただけ病状が悪化する裕希の語り口に不安をおぼえた優子だったが、その日の夜、本当の理由を知る。
完三が、会わないという約束を守らなかったから涼を刺したと告白したのだ。
そして、完三は、その罪悪感から刑事を辞めることを報告した。
突然の告白に、優子は涙をためて謝罪の言葉を重ねようとしたが、完三が制止するように話し出した。
全ての元凶は涼であり、優子を守るためにはこの方法しかなかった、と…。

涼は病院のベッドで悪夢にうなされていた。
見る夢は同じ。記憶をたどるように同じ風景が流れ「お父さん!」と呼ぶ声で目を覚ます。
今は現実に引き戻されると傷の痛みが襲ってきて、涼は、傷口に苛立ちをぶつけながら身体を丸めた。
治療に当たってくれている老医師は、封印された過去が何かのキッカケでよみがえることもある、と話す。
上手くいけば真実にたどりつける。そうでなければ泥沼を這う。老医師の言葉に視線を落とす涼。
涼と話しながら、老医師は、カルテを書こうとしたが、必要ないか…と言って手を止めた。
病気の歴史を書くカルテから、いろんな人生が透けて見える―。
涼は、その言葉で何か思い当たった風に、カルテはどのぐらい保管しておくものか老医師に尋ねた。

優子は、裕希の電話で、涼がもうすぐ退院できそうだと聞いた。
電話を切った直後、部屋の外から完三が話し掛けてきたが、優子は顔を見せることなく話を続ける。
2人の間には、ほんの少しの気まずさが残っていた。

そんな優子を、日下が訪ねてやってきた。
自分のベスト5映画のレンタルテープを持参して。
実は、優子を気遣う完三が日下に連絡をとって引き合わせたのだが、日下はそれすらも正直に話す。
優子もまた正直で、以前話していた好きな人のことかと聞かれたら視線を落とし、自分とはもう2度と会うつもりはなかったかと聞かれたら「すみません」と頭を下げた。
それでも日下は、優子を元気づけようと明るく振る舞った。

部屋に戻った涼は、傷口に気を配りながら、鳥かごの前に腰を下ろした。
そして、涼の帰りを待っていたかのように鳴く小鳥に、新しいエサを用意した。

完三が『たぬき』で食事をしているところへ、涼がやってきた。
治ったのかと尋ねる完三に、上着をたくし上げて包帯に巻かれた腹部を見せて隣に座る涼。
刺される前と一向に変わらぬ涼の態度に、完三は腹立たしげにいさめようとして、止めた。
代わりに、優子が日下とよりを戻したことを話し始め、日下の条件のよさを語り、幸せになってほしい、としみじみ語った。
黙って聞いていた涼は、優子に「お幸せに」と伝えて、と言っただけで『たぬき』を出て行った。
『たぬき』を出た涼は、夜風から守るように自分の身体に腕を回し、帰途についた。
帰りついた涼は、部屋には入らず、ビルの屋上で腰掛け、目の前の景色に目をやりながら膝を抱えた。

堂島家の朝食のとき、完三は、涼の伝言を優子に伝えた。
もう『たぬき』にも来ないと言っていた、という小さな嘘と、涼が元気そうにしていたことを添えて。
完三の気遣いを知ってか、優子は、もう涼が現れそうな場所には行かないと言って、食事を続けた。

完三が刑事課での荷物の片付けをしていると、杉田が退職後の身の振り方を尋ねてきた。
うどん屋でも始めようかと思っている胸の内を口にしながら、荷物の整理を続ける完三。
そんな中、荷物の中から出てきた若い頃の自分の写真を取り出し、杉田とともに感慨にふける。
そして、その写真を撮った数ヶ月後に起こった出来事によって出来た人生のひずみを忌々しげにつぶやく。
完三の様子を心配そうに見ていた杉田の顔に気づき、完三は、昔を振り払うように、杉田を飲みに誘った。

その頃、『Reve』で黙々と後片付けをする涼を、日下が尋ねた。

飲みに行った完三は、杉田に、涼を刺したことを告白した。
杉田は、以前涼の火傷の跡から25年前の男の子ではないかと言っていたことも持ち出して、完三の涼への執着ぶりを懸念した。
完三は、25年前の男の子のことが気になってしょうがなかった。
完三が警察を辞めることを寂しがる杉田は、自分をもっと好きだったらよかったのに、と言うが、完三は相変わらず素っ気ない。
でも、そんな関係でもいいか、と明るく振る舞い、先を歩く完三を捕まえて次の店へ誘うのだった。

完三が帰宅すると、風呂上がりの優子が出迎えた。
気まずさが消え普段通り会話する優子の姿に、完三は胸をなで下ろした。

仕事中の優子に電話が入った。
それは日下からで、日下は『Reve』を訪ねて涼と話したことを優子に伝えに来たのだ。
日下が言うには、涼は「もう優子と付き合う資格はない」と言っていたらしい。
そして、涼が何処かへ行く様子だったことも伝えて、後悔しないようにもう一度涼と会うことを勧めた。

涼は、再び小鳥を放そうとしていた。
カゴを取り去り、小鳥が自ら飛び立つのをじっと待ったが、いつまでも飛び立たないのを見て、手を伸ばした。
「飼われてた鳥は、1人じゃ生きていけないんだよ」
突然発せられた声に驚いて、声のする方へ向き直る涼。
その視線の先には優子がいた。
「1度抱きしめた心は、もう1人じゃ生きていけないんだよ」と言い終えると同時に涼に駆け寄る優子。
涼は優子を受けとめ、2人はあふれる気持ちのまま、お互いの身体に腕を回して抱き合い、そして熱い口づけを交わした。
涼の部屋の、涼のベッドで身体を重ねる涼と優子。
涼は優子を包み込むように抱きすくめながら、優子を抱いたらどうなるか怖かったとささやいた。
優子は涼の腕枕と抱きすくめる腕を感じながら、涼に抱かれたら何かが壊れそうで怖かったとつぶやいた。

その夜の完三は自宅で1人、何かを探していて、棚から出したものが散乱していた。
棚から引っ張り出した風呂敷を開くと、以前使っていたような古ぼけたのれんが出てきた。
のれんを広げると、そこには、「堂島」「関西うどん」の文字が入っている。
少しの間のれんに目を落としていた完三は、また棚から古い自分の写真を取り出し、しみじみと「あんなことさえなかったらなぁ…」と苦い表情を見せる。
そうやって写真を見ていた完三だったが、ふと何かに気づいたようで、何か考えを巡らせるように遠くに視線を向けた。

涼は、自分が描いた絵の場所を探していた。
澄み渡る空気に囲まれた広い自然の中を、その土地の人達に尋ねながら、涼は、どんどん探していた場所に近づいていった。

同じ頃、完三は車を走らせていた。
高速をおりて、地図を広げながら、どんどん自然の多くなる道で、車を走らせていた。

木々が回りを囲む道を周囲に目を配りながら歩いていた涼は、木々の向こうに湖を見つけて、その湖のほとりに降り立った。
そして少し歩いているうちに見つけたものに目を見張り、持っていた絵を広げながら近づき、その前にしゃがんだ。
しゃがんだ目の前には、倒れて湖に半分埋まった鳥居―涼の絵には、それが赤く描かれていたのであった。

完三は車を降りて、目の前の病院に入っていった。
そこは、完三がずっと気になっている25年前の男の子が火傷を負ったときに運ばれた病院で、完三は、事務の女性に頼んで「沢田省吾」という名前で病院に記録が残っているかどうか調べてもらった。

木々が生い茂る森の奥へ足を進める涼は、その中に廃屋を見つけた。
入口のドアの前に立ってじっと見つめ、ドアノブに手をかけると、思いもかけずドアが開いたので、驚いて一瞬手を離す。
意を決するのに喉を湿らせてから、改めてドアを開いて中に入った。
蜘蛛の巣がいくつか張り巡らされた廃屋の中に目をやると、いきなり記憶の青写真が頭の中に浮かびあがる。
不思議な感覚に目を見張る涼は、恐る恐る足を動かして中へ入っていく。
ふと見つけた棚の上のテープレコーダーに触れようとして戸惑っていると、その足元にストーブがあることに気づいた。
さらに奥、敷居戸の向こうからもれる明かりに誘われるように入った部屋で、辺りを見回しながら1歩踏み出すと、何かを踏んだ。
しゃがんで1度踏んだものを手に取り、一面を覆う埃を息で吹き飛ばすと、パズルであることが分かる。
その途端、頭の中に、幼い頃の自分がパズルで遊んでいる記憶が蘇ってきた。
そのとき、背後で鳥の羽音が響き、突然のことに思わず立ち上がり、敷居戸の方へ向き直る涼。
羽音の主が一羽のふくろうだったことが分かり、安堵の息をもらす涼だったが、さらに記憶が頭の中をよぎる。
通ってきた入口に近い方の部屋を逆から見たとき、幼い頃の視点が重なってくる。
その視点からテープレコーダーを見ると、今度は音も蘇って来て、涼は思わず頭に手を添えて顔を歪める。
ストーブとその横に転がるやかんを見ると、ストーブから落ちてお湯をまき散らすやかんの映像も蘇る。
そして、蘇る拳銃と銃声の記憶にハッとする涼。
幼い自分が見ている、その左側には誰か立っている人。右側の倒れている人に向かって、幼い自分は「お父さん!」と叫ぶ。
左側に目をやると、立っている人の手には拳銃があった。
ゆっくりと1歩1歩踏みしめながら歩く度に、もやが晴れ、より鮮明に見えてくるものがあった。
倒れている父の奥にあるテレビに何かが見えてきた。
拳銃を持つ人の姿が。顔が。―若き日の完三!!

完三は、事務の女性から、記録が残っていないという答えをもらっていた。
事務の女性は、興味深げに、完三の他に子供の頃に入院した際のカルテを探しに来た男がいることを口にした。
その男の名前を尋ねた完三に、事務の女性は、書き留めたメモを渡した。
受け取った完三は、その男の名を口にする―「片瀬、涼」と…。

涼は、思い出した事実に後ずさりして、隠れるように敷居戸に身体を預けた。
まるで、衝撃の出来事を目の当たりにした幼い頃の自分に戻ったかのように、ただ敷居戸に身体を預けて廃屋の中を見つめるだけだった…。
 

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